ガザの封鎖を解いて下さい(1)

ラジ・スラーニ講演 東京四谷にて 2014年10月17日

立ったままお話することをお許し下さい。普段、立って話しますので。

国際法、国際人道法、人権法。別にこれはパレスチナ人が発明したもの、でっち上げたものではありません。特に第二次世界大戦を経ての動きですが、国際社会が、世界が、ひどい経験を経て決めたことです。それは、ユダヤ人の迫害であり、ヒロシマであり、多くの町や村が破壊し尽され、8,500万人の市民が殺されるという経験でした。そうしてできたのが、ジュネーブ条約であり、世界人権宣言であり、国際人権規約やジェノサイド禁止条約だったのです。すなわち、市民を守るということです。

私は法律を信じる者であり、法の支配を信じ、ジャングルの掟に反対する者です。ですから、弁護士としての仕事は単純です。事実、基準、結論、ということです。人権弁護士としての仕事は、基準にのっとるということ。政治的正当性は関係ないです。そして一貫して夢多き革命家であることです。第一級の夢見る者です。何を夢見るかというと、それは二つです。正義(正しい裁き)と人間の尊厳です。

問題はイスラエルがパレスチナの占領を占領と認めないことです。43日間だけ、占領ということを認めました。それもあとになって、いやあれは行政的な管理だったのだ、というような言い方をし始めています。

 ですから、イスラエルによれば、占領ではない、だからジュネーブ条約は適用されない、と言うわけです。ですから、イスラエルはフリーハンド。やりたい放題です。占領地で、既成事実の積み重ねという政策を続けます。それに抵抗したり、反対したり、止めようとしたり、自分たちを守ろうとすると、待っているのはただ一つの運命。つまり、「テロリスト」と言われるわけです。こうしてイスラエルは、テロリストを抑える措置を、ということになります。

それがイスラエルの立場ですし、世界の立場です。世界すなわち、アメリカ、ヨーロッパ、国連を含んでの世界です。

20年前、オスロ合意がありました。そして1999年の5月4日にはパレスチナ国家が出来ているはずでした。しかし、20年たった今も、占領は続いています。それはガザ地区の封鎖であり、ガザの社会的・経済的窒息であり、西岸地区の新アパルトヘイトであり、エルサレムの民族浄化、ユダヤ化であります。

なぜそうなったか? それは、これまでの20年間のスローガンが、被害者は法の支配、民主主義、人権を我慢しなさい、平和と安全のために妥協しなさい、ということだったからです。20年経って、パレスチナには、法の支配も、民主主義も、人権もないのです。平和と安全もありません。あるのはジャングルの掟、強い者のやりたい放題、イスラエルが何をしても責任を問われないという現実です。

 

パレスチナ人は世界で最も重要な裁判所の一つであるICJ国際司法裁判所に勧告的意見を求めました。イスラエルが占領地の中に建てた分離壁に関してであります。それは西岸地区併合の壁であり、そのために、新たに50万人の難民が発生し、広大な土地が没収されました。

ICJの判断から10年。イスラエルはそんなの関係ない、という立場です。いつしか国際社会からも(知識人たちからも)、ICJの判断は忘れ去られました。

イスラエルがガザに対して行って来た「封鎖」は、ICRC国際赤十字委員会やあらゆる国際的な人権機関、人権団体から、違法であり、非人道的であり、集団懲罰であると言われており、封鎖は解かなくてはならない、とされています。というのも、市民が犠牲になっているからです。市民が窒息状態に置かれています。あらゆる人々が大きな影響を被っています。病気の人、学生、高齢者、若者、事業者、女性、子供が犠牲になっています。経済を麻痺させ、ガザの発展を阻害しています。飲み水の処理、下水の処理も出来ません。

この6年間に3つの戦争がありました。3つの犯罪的な戦争です。その真っ只中、その嵐のど真ん中に置かれているのが、市民であり、民間施設です。それらが標的になっているのです。ガザに人々を閉じ込め、窒息状態にしている「封鎖」、そこへ攻撃をしかけ、ガザを破壊しているのです。多くの人が亡くなり、負傷し、あるいは障碍を抱えるようになりました。

最初は2008年から9年にかけての攻撃でした。そして世界は−−−国連の人権理事会もそこに含みますが−−−そうだ、戦争犯罪があった、イスラエルのしたことを調査すべきだ、として、ゴールドストーン調査団を派遣しました。そして6ヶ月後には、この問題はICC国際刑事裁判所に持ち込まれるはずでした。しかし、何も起きませんでした(待ったがかかった)。

私たちパレスチナの弁護士は(イスラエルの弁護士の協力を得て)1,168件の訴えをイスラエルの軍事法廷で起し、さらに492件の訴えをイスラエルの通常の裁判所で起こしました。しかし、イスラエル軍の兵士に実際に有罪の判決が下されたのはわずか4件でした。1件は、白旗を掲げていた女性とその娘を殺した兵士。それも数ヶ月の刑です。1件は、パレスチナ人のクレジット・カードを盗んだ兵士。2件は、「人間の盾」を使った兵士でした。

1,400人あまりのパレスチナ人が殺されましたが、サムニ一家やダヤル(?)一家など29人、あるいは20人と、一家全員が殺されるという、甚だしい犯罪も起きました。しかし、その責任は誰も問われません。そうなると、もう何をしても構わない、という「免罪」が与えられます。やりたい放題。もう何をしてもいいのです。

占領国の制度であるイスラエルの裁判所を使っての裁判のほか、普遍的管轄権(と言って他国の問題を自国裁判所で扱う制度)を活用し、スペイン、イギリス、スウェーデン、南アフリカなどでも試みましたが、少なくともイギリスとスペインの法廷で成果がありました。なんとか、明白な判断が下され、イスラエルの戦争犯罪で逮捕、捜査へ道を開くというものでした。しかし、これらの国から(イスラエルへ)謝罪があり、法律の改正まで行われています。イスラエルの戦争犯罪をより問えなくするという法律改正です。欧米諸国がそういう動きをしているのです。

私は60歳になりました。これまでの人生、ずっとガザです(訳注:留学以外)。弁護士歴37年。しかし、今回ほどの殺戮は、初めてです。これまでで最も残虐で、最も血なまぐさい、最も破壊的な犯罪でした。とにかく、こんなことがあるだろうか、と思うほどのものすごいガザの破壊と殺戮でした。起きたことを説明しようとして、時々、私は言葉を失ってしまいます。

ガザにもはや安全な場所はないと思いました。365平方キロの面積(訳注:東京23区の6割くらい)に200万人近い人々が閉じ込められています。とにかく大変な思いをしました。当時、ガザに来ていた土井さんもそうです。私たち、誰ひとりとして、翌朝、自分は生きているという自信はありませんでした。

2,246人が殺されました。うち543人が子供。322人が成人女性。殺された2,200人あまりの81パーセントが市民です。パレスチナ人の多くの尊い血が流され、そして多くの苦しみを味わわされました。と言うのも、その他に12,000人が負傷しましたし、うち400人は、やがて死を迎え、あるいは、たとえ死を免れても、苦しみを味わい続ける一生となるかもしれない状態です。手足の切断などの重傷者。一生、人の手に頼ることになるかもしれません。

端的に示すのが、一家全滅という74世帯です。ナジャール一家、バラッシ一家、カガカワラ一家、などなど、一家29人全員死亡、一家27人、22人と、全員死亡の例が74件もあるのです。

イスラエルには「ダヒヤ・ドクトリン」(訳注:レバノン戦争の時に壊滅させたダヒヤ地区にちなむ地域殲滅の軍事ドクトリン)がありますが、今回、ガザでは(同じように名前を付けるとしたら)シュジャイーヤ・ドクトリン、ベイトハヌーン・ドクトリン、ホザー・ドクトリン(といくらあっても足りません)。とにかくひとつの地域が全滅です。ひとつの地域を、F16型ジェット戦闘機、アパッチ攻撃型ヘリコプター、無人機、戦車、大砲などで総攻撃するのです。頭上に爆弾、ミサイルが雨あられと降り注ぐ、地獄の門が開いたような状況です。

病院も救急車も標的です。多くの人がそうやって殺されました。病人・負傷者、看護師もろとも吹き飛ばされます。手術中の手術室も爆撃されました。今回の戦争で54万人の避難民が発生しました。およそ20万人が家を失いました。

ガザ地区に1つしかない発電所も攻撃を受け(訳注:この日上映された土井敏邦氏の今年8月の映像には、透析中に停電となり、手動で透析をする様子が収められていた)、水道施設も下水処理施設も攻撃を受けました。それらの施設はもはや機能しません。ニューヨークにはツイン・タワーがありましたが、ガザにも立派な高層住宅がありました。私はニューヨークとひけをとらない立派な建物と思います。そこに120から140のアパートが入っていますが、そういった建物が一瞬にして、ミサイル攻撃で、瓦礫の山と化すのです。

工場もおよそ450カ所で攻撃を受けました。いずれも民生部門であることははっきりしています。民間施設を意図的に標的にする方針であることは明白です。それは秘密ですらありません。付帯的被害(訳注:市民を殺した、民間施設を破壊したということをぼかすことにもなる軍事用語)とか誤爆といったことではないのです。過度の武力の行使であることも明白です(訳注:いずれも国際人道法違反)。

今回の戦争が始まって3日目にイスラエルの国防相も軍の参謀長も公言しました。戦争が終わったら、パレスチナ人もハマスの指導部もおったまげるに違いないと。しかし、その犠牲となるのは市民なのです。

今回の犯罪的戦争。2つあります。1つは市民を守らなくてはならないということ。2つ目は責任を問わなくてはならないということです。絶対必要です。それをしなければ、またいつか繰り返されます。

私たちは善き犠牲者(イスラエルに都合のいい大人しい犠牲者)たる権利はありません。私たちは尊厳を捨てる権利もありません。私たちは占領、この犯罪的で好戦的な占領に抵抗する権利があります。

戦争犯罪をリアルタイムで全世界が目の当たりにしました。それは暗い、血なまぐさい映像でしたが、そこがイスラエルの狙いなのです。人々の心に植え付けたいのです。そして、あきらめさせ、ジャングルの掟を押し付けようというのです。

しかし道義的な優越性は私たちのものです。これは正義の戦いです。誰も心から希望は奪われません。より良い明日は私たちのものです。私たちは、占領が間違っている事、不正義であることを知っています。これは自決権のための戦い、尊厳と法の支配のための戦いです。明日は私たちのものなのです。

(質疑応答へ続く) http://noraneko-kambei.blog.so-net.ne.jp/2014-10-18-1


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ラジ・スラーニ 各会場の講演と質疑:

1011日 東京大学

 ⇒ 講演「沈黙という名の共犯関係」

 ⇒ 質疑応答

1012日 東京大学

 ⇒ 土井敏邦監督の記録映画について

 ⇒ 臼杵陽教授との対談

1013日 京都大学

 ⇒ 講演「かくも重き罪 裁かれぬ理不尽」

 ⇒ 質疑応答

 ⇒ 京大講演 IWJ 動画 「ガザに生きる尊厳と平等を求めて」

1015日 広島大学

 ⇒ 講演  「戦争犯罪の責任を問う」

 ⇒ 質疑応答

1017日 東京四谷講演  弁護士集会

 ⇒ 講演「ガザの封鎖を解いて下さい」

 ⇒ 質疑応答

 

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