アバッカ・アンジェイン=マディソン(マーシャル諸島共和国)証言
今から61年前の今日、太平洋のマーシャル諸島で起きたことを彼女は語った。
去年12月ウィーンで開かれた「核兵器の人道上の影響に関する国際会議」再録シリーズ。
議長、会場の皆さん、マーシャル諸島の人々の挨拶を皆さんにお届けします。特にロンゲラップ環礁の放射性降下物(「死の灰」)の汚染に生き残った女性たちからのご挨拶をお届けしたいと思います。ここに参ることができて大変光栄です。私を遠くマーシャル諸島からお招き下さったオーストリア政府にお礼申し上げます。核兵器の人道上の影響に関してお話をする大変貴重な機会を頂きました。
マーシャル諸島は美しい国です。太平洋の真ん中に位置します。他の国々からは遠く離れ、29の環礁や小さな島々、海面からわずかに浮かび上がる島々から成る国です。地理的にはミクロネシアに属し、グアムとハワイの間、200万平方キロメートルの海域に当たります。人口は6万5000人あまりです。うち50%が学童児です。
マーシャル諸島の人々は非人道的な目に遭い、苦しんできました。核兵器によってです。そして将来的にこの苦しみは続くでしょう。長期的な影響があるからです。
1946年から1958年までアメリカは67回の原爆と水爆の実験を行いました。ビキニ環礁は爆心地として使われたのです。核実験をビキニで行うためアメリカ軍は「これは人類のためだ」と言って地元の指導者を説得しました。
1954年3月1日、広島型の原爆の千倍もの威力のある強力な水爆を爆発させる「ブラボー実験」が行われました。ロンゲラップ島には私の親戚が住んでいて、放射能汚染の被害を受けました。マーシャル諸島での核実験は、広島に落とされた原爆を毎日1.5個起爆させることを12年続けるに匹敵します。
従姉妹のレモヨンは当時13歳でしたが、空から粉が降って来るのを見て、雪だと思いました。友達たちとそれを口にほうばり、手に取り、肌や髪にこすりつけ、遊んでいました。あとで島の87人全員が体調を壊します。とても具合が悪くなります。嘔吐、下痢、激しい頭痛と吐き気。特に子供がそうでした。叔父のジョン・アンジェインは当時島の当局者でしたが「500キロ先で爆弾が爆発するなんて話は聞いていなかった」と言っていました。私たちは爆弾とは何かということすら知りませんでした。(マーシャル諸島の言語には)爆弾という言葉さえありません。汚染という言葉もありません。「毒」という言い方をします。水をとても苦く(?)感じましたが、それが放射能というもので汚染されていた水とは知りませんでした。注意するようにとか、避難するようにとは誰も言ってくれませんでした。
3日後に全員がアムカジュラン島の軍の基地に避難させられます。記録によれば、避難させられていなかったら全員死んだだろうとのことです。つまり、私の従姉妹スージも叔父(の・・)も伯母も亡くなっていただろうということです。この家族は絶えていた筈です。
島の人々は実験台として使われたわけですが、女性たちには流産が頻発しました。クラゲやマシュマロのような赤ん坊が生まれました。甲状腺癌、肝臓癌など放射能によるいろいろな癌が発生します。国立ガン研究所の報告によればこれからもマーシャル諸島では癌になり、死ぬ人が出てくるとのことです。今、ロンゲラップの人々は島から離れ、別の島、クワジャレイン島で暮らしています。故郷の放射能汚染が激しいからです。(移住を支援してくれた)グリーンピースに感謝です。
マーシャル諸島政府は健康被害のコストを不当に負わされています。(アメリカが設置した)核被害者法廷では資金が尽き、結局、1500万ドルあまりをマーシャル諸島が負担したのです。そこには土地の被害の賠償も含まれます。
私たちマーシャル諸島の人間には土地が必要です。しかし、放射能汚染のために自分たちの土地に住めないというのは、私たちの先住民としての権利そして人権を奪うことです。それらの権利は、私たちの子供や孫のよりどころです。
マーシャル諸島の人たちの経験から共に学びましょう。明らかに、核兵器は非人道的です。その代価は非常に高く、長期的に被害が及びます。ですからマーシャル諸島政府は国際司法裁判所に訴えているのです。多くの支援が寄せられていますが、十分ではありません。もっと必要です。
最後にマーシャル諸島の女性たちの唱えるかけ声をお届けします。何かをするときに元気が湧いてくるようにするかけ声です。こんな感じです。
ウマーロ ピクピクルコローヨ アーグンチド アマルットコロ イーケッケ!
ありがとうございました。
冒頭の顔写真は朝日新聞より:
核なき世界、望むオセアニア 核兵器禁止条約発効、51の国・地域が批准
朝日新聞 2021年1月22日 https://digital.asahi.com/articles/DA3S14773523.html
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