地域的核戦争後の地球的飢餓

 「地域的核戦争後の地球的飢餓:新しい研究の概観」

マイケル・ミルズ博士(アメリカ国立大気研究センター)(要約)

広島に落とされた原爆と同じくらいの威力の小さい核兵器をインドとパキスタンが双方とも備蓄分の半分(50発)をお互いの都市に目がけて発射し、合計100発が爆発すると仮定した研究(科学者10人の共同研究)の結果は以下のとおり。

近代的巨大都市が大火災に包まれ、何時間も燃え続け、その結果黒色炭素の煙500万トンが発生。それが成層圏にまで達し太陽によって温められる。そうなると雨によって地上に戻ることはなく、成層圏に10年から25年は留まり、太陽熱を吸収する。そのため地表の温度が急落する一方、成層圏は著しく熱せられる。それによりオゾン層が失われる。人間の居住する上空でオゾン層が20%ー50%消える。人間の歴史でこれまで経験したことのない事態である。地域的な限定的核戦争でもこのような地球規模のオゾン・ホールが出来てしまう。

その一方で、地表の温度はこの1000年で最も低い水準となる。20年たっても気温や降水量は完全には元に戻らない。海が熱慣性のため冷えたままである。海上の氷の面積が拡大し、太陽熱の反射も起きている。

紫外線指数が中緯度地方で夏に30%-80%上昇するので、人間の健康(皮膚がん)や農業、生態系へ被害が広範に及ぶことが考えられる。海の生態系も被害を受ける。霜のために農作物の発育する時期が5年間にわたって年に10-40日は短縮され、地表の温度低下が続く。降水量も減り、成長が阻害され、生産性も低くなる。

気温の低下と紫外線の増加により地球の食糧生産に大きな影響が出て、地球規模の食糧危機が起き、10億人に餓死の恐れ。最初の5年は年15%ー40%農作物の生産高が減少する(大豆、米、小麦、とうもろこし、北米、中国の地域別・作物別の表を参照)。次の5年は10%ー25%の減少。現在世界の8億7000万人が栄養不足だが、食糧の消費量が10%減少しただけでこのグループも危険になる。印パのこのような地域的核戦争で世界の20億人に飢餓が迫ることに。

印パの地域的な核戦争でも地球的規模の気候の変動が起きるが、米ロの間で核戦争となればその比ではない。破滅的。新STARTを2017年までに完全に履行しても、米ロの核戦争となれば、発生する黒色炭素の量は30倍の1億5000万トン。日光の70%は地表に到達せず、地表はほぼ氷河期の状況に近づく。中緯度地方は何年も気温が氷点下のままで、農業は10年あまりできなくなり、大量の餓死。まさに「核の冬」の到来である。今の気候モデルは核の冬の学説が正しいことを示している。

小型の核兵器100発(世界の核兵器の1%未満)の影響だけでも人類の歴史に類を見ない気候の変動が数十年続く。それを考えただけでも、今日地上に存在する17,000発あまりの核兵器の廃絶の動機付けに十分である。

ポール・セイガンも言っている:「地球の基礎的衛生の求めに従うならば、我々は今以上の速度で核廃絶を行わなくてはならない」


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